情報収集 [2002.06.03]

昨今、「世界の工場」と注目されている中国に進出するには、越えなければならない多くの課題があります。この難問に留意せず安易に進出行うと、結果を得る事なく撤退を余儀なくされることになりかねません。

1−1.中国進出の課題[その1]
1) 現地調査・情報の収集
まずなによりも必要なことは、正確な現地情報の収集と現地調査です。
  ○工場の設立場所
  工場をどこに設立するかで、必要な経費は大きく異なり、費用が少なくて済む地域では、それに伴いインフラや人材・制度等の諸問題も考慮する必要があります。
  ○外注協力工場
    外注協力工場の品質・技術レベルは当初からは期待しないほうが無難です。設備の性能等の問題もあり、「時間を掛けて育てる」気持ちが必要です。
  ○部品資材及び機器の調達等
    最近は日本製の部品も中国で入手できるようになりましたが、価格は日本の2割以上高くなっております。中国製は安く入手出来ますが、中国では商社機能が少ないためにその情報の収集が困難です。性能・品質の安定・耐久性等にも留意する必要があります。
 
2)投資資金
  上海における外資企業の最低資本金として20万ドルが必要となります。
実際の事業立ち上げには余裕を持った時間が必要で、その間の経費を充分に考慮しておかなければありません。スタッフ200名程度の規模の場合、事業立ち上げまで2年を要すると2億円程度の資金が必要と推測されます。(設備投資を除く)
 
3)事業パートナー
  事業を成功させるために最も重要なものは事業のパートナーです。独資による進出であっても、実際に業務を推進するのは中国人スタッフであり、社員の立場でも現地責任者の資質は事業推進に最も重要な要素となります。独資であれば尚更に現地責任者をパートナーとして重要視しなければなりません。
旧知の知人や自社在職中の中国人を現地責任者としても、必ずしも容易に事業が遂行出来るとは限らず、友人・知人に頼って目算を誤る事例も多々見受けられます。
 
4)事業立ち上げ
  実際の事業立ち上げには現地事情に精通した人でなければならず、そのスタッフの人選には大手企業でも苦労をしているのが実状です。進出計画の過程では社内に精通した人材が無いのが普通で、外部の人材を登用するか助言者を求める事になります。この場合性急に結論を出さず、時間をかけて判断する余裕が必要です。
 
5)自社派遣社員(駐在員)
  事業を行い管理するには、自社のスタッフを駐在員として派遣させなければなりません。この場合、自社で最も信頼でき技術的に優れ、経営感覚を持った社員を派遣する必要があります。これは自社における貴重な戦力を削がれることとなります。
また、現地に社員派遣を行う場合、約2,000万円(一人/年間)の費用が必要です。
 
6)現地スタッフの教育
  現地スタッフの採用・教育にも多くの費用と時間が必要です。教育には中国の文化・価値観に留意した上で、出来る限る速く、自社企業文化の浸透を図ることが重要です。
 
7)工場管理・運営
  実際に工場を立ち上げた場合、現地スタッフを管理し、事業を推進するには中国の文化・習慣を理解し、対外活動や法律等の問題にも対処しなければなりません。価値観の合わない所、理解し難い点は全て「中国の文化である」として、まず受け入れる寛容さが必要です。

1−2.中国進出目的と対応
中国進出を検討する際には社会状況に流されることなく、自社の中国進出の目的を明確にする事が重要です。
1) 中国進出の主目的と事業内容
製造コストの削減を目的にする場合 削減目標と生産移転の規模
中国進出取引先の要請による場合 取引先との取引状況に見合う投資規模
保守および営業拠点の場合 現行の取引件数と潜在市場
中国市場獲得のための進出の場合 競合他社の動静と市場規模及び将来性
 
2) 進出形態の違いによる対応
 
単独資本 100%日本からの出資、設立から運営まで自己責任で行う必要がある。
充分な情報収集と周到な準備が必要で、安易な決定は禁物。
合弁事業 中国企業との合弁、責任の分担が出来るが経営に自由度がなくなる。
合弁相手経営責任者との事業目標を一致させることが重要。
委託生産 リスクが小さく試験的な進出が可能だが品質維持には留意が必要である。
委託先の経営状況と技術レベルを充分に確認。
駐在員事務所 情報収集のみで営業活動は禁止されている。
 
3) 派遣社員の人選、人材確保の方法
  社内派遣社員の人選
中国人現地責任者の人選
スタッフ・ワーカーの人材確保
 
4) 投資資金の規模
  設立費用・投資資本金・設備投資金額・事業立ち上げ運転資金
 
5) 事業計画
  会社設立までの予定
製品生産までの予定
単年度黒字までの目標
投資回収計画および市場分析
それぞれの過程における最悪のシナリオとその対応

1−3.中国進出における留意事項
1)「郷に入りては、郷に従え」
中国の文化を理解する。(日本の常識・ルールは通用しない事を認識すべし。)
 
2) 「事業成功の鍵は、中国の人材にあり」
  偏見を捨てて、情熱と信頼、忍耐と辛抱で人材を育てる。
 
3) 時間を掛けて、お金を賭けない。(急いては事を仕損じる。)
  すべてのことにおいて時間をかけて検討し、結論を急がない。
 
4) 小さく産んで、大きく育てる。
  出来る限り初期投資を少なくして、事業の進展に伴い必要であれば再投資を行う。
 
5) 面子・形式に拘らない。
  進出の形式による面子に拘ってはならない。(見栄は百害あって一利なし)
 
6) 社運を賭けてはならない。
  「帰らざる橋を渡る」冒険をしてはならない。いつでも撤退出来る余裕が必要。
 
7) 人情的にならない。
  中国でのビジネスはドライに割り切ることが肝要、情けは仇となることが多い。
 
8)中国通・日本通に要注意!
  中国通の日本人、日本通の中国人には要注意!
コンサルタントは助言者であって、事業家ではないことを認識すべし。
一人の人脈や情報に頼りきらず、情報は複数のルートで収集して判断する事が重要。
 
9)日本在住の中国人はビジネスにおいては全くの素人
  民間資本による事業の自由化は実質的には99年からで、わずか3年しか経過していない。
この間に制度の変更は度々行われており、実質的な事業経営を継続している者でなければ過去の経験・情報は殆ど通用しない。日本在住の中国人は「浦島太郎」となっている可能性が大きい。信頼できる人といえども事業展開に過度な期待と信頼は禁物である。
 
10)経済観念は現地物価を基準とする。
  全ての価値は現地物価で判断すべし。結して日本の価値観で判断してはならない。
上海での人件費 : 15000円/月 ・ 680円/日当 ・ 85円/時間単価
   

1−4.中国進出において日本企業・経営者が懸念する事項
1) 中国ではルールの変更が頻繁で安心が出来ない。
中国では確かにルールの変更が頻繁で、予告なく施行されます。これは別の視点から観れば、現状に合わない規則は直に撤廃されると言う事でもあります。現在の硬直した日本のような「変わらない、変えられない」社会よりはるかに柔軟な制度であると感じます。
   
2) 特許侵害等の問題
  過去、日本においても海外製品の模倣によって技術力を向上させたのであり、韓国そして台湾も同様です。肯定するものではありませんが、中国だけが模倣の非難をされるのも如何なものかと思います。(振り返ればそこには我身が映っている。)
特許侵害に関しては、その使用料が中国企業の経済力に見合う提案がなされなければ、中国側から観れば「ライセンスを供与する意図がない。」と思われても無理のない事ではないでしょうか。中国企業にとって支払い不可能なライセンス料の要求・価値の押付けはコピー品を産ませる一つの要因となることも留意することが必要です。
   
3) 社内技術が流出してライバルになる可能性がある。
  自社の社員が会社で学んだ技術を持ってスピンアウトし、ライバルとなることは日本でも珍しい事ではなく、違法行為でもありません。問題は社内で努力しても報われない企業体質こそが問われなければなりません。特に中国進出の日本企業は、事業の現地化に対する意図が見えず、日本人スタッフは常に日本本社を見て業務を行っているのが殆どです。

このような状況では優秀な中国人スタッフが将来について夢が持てず、外に活躍の場を求める事も充分に理解出来ます。信用力や技術力・営業力を常に強化し、ライバルが誕生しても競争力が保てるように、日々心がけておくことが必要ではないでしょうか。
   
4) 日本の技術流出についてどのように思うか。
  嘗ては日本も、アメリカやヨーロッパから技術を学び、独自の創意工夫によって技術大国・経済大国となりました。技術の移転・流出は歴史的必然性であり、止める事の出来ない流れです。むしろ流出すると言う前提に立ち、危機感を持ってこそ新しい発想による、技術革新が出来るのだと思います。(持てる者は寛容になることも必要)
「中国に製造を持って行った者が技術を流出させ、日本の産業を困難にしている」と言う非難は、歴史的な事実を認識していない不遜な考えではないでしょうか。
 
5) 産業の空洞化・失業の増大についてはどう思うか。
  この問題は政治的課題であり、一企業経営者にその責任を転嫁するような風潮は如何なものかと思います。数千人の従業員を雇用する代表者であれば、社会的責任と影響力も大きいと思いますが、現実にはそのような企業の多くは海外進出を果しております。
   
6) 中国政府・要人とのコネクション・人脈が必要。
  事業内容によると思いますが、企業相手の産業では人脈は必要ありません。
むしろマイナスには作用することもあり、迂闊に人脈に頼らないことが懸命です。
   
7) 売上の回収。
  日本のような信用取引きや手形決済制度は無く、設備取引の場合は前金(20〜50%)と納品時残金支払いが前提で、弊社では過去7年で回収のトラブルは殆どありません。
   
8)投資資金回収(日本への送金)。
  中国では事業利益の内部留保的考えは少なく、利益の多くは株主配当されます。
独資会社・合弁会社では配当を海外送金することには問題ありません。又余剰資金によって日本への再投資の機会もあります。

個人的な考えですが、中国は今後10年程度の成長率は5%以上と予測されております。
その意味では、成長の期待出来ない日本に金融資産を持ち出すより、中国国内において本業あるいは新事業に再投資をする方が将来への期待は大きいのではないでしょうか。現在、中国の通貨である人民元はドルとの固定相場となっておりますが、将来においてその切り上げが行われることは確実であると思います。(相対的金融資産価値が上がる。)

(利益のことは儲けてから心配しましょう!)
   

1−5.中国への対応
多くの日本企業経営者に中国の状況や問題等につきましてご質問を受け、またご意見をお伺いすることがあります。その殆どの方は中国の問題のみを取り上げ、自社(日本)の問題を問題として認識していない事を感じます。中国での懸念は自社(日本)の問題として現にあること、経験してきたことと同じ問題であると再確認する必要があります。

勿論、中国は異国であり、環境も歴史も違います。日本とは異なる価値観・文化を持っており、それを障害と捉えることなく、まず受け入れることが寛容です。受け入れることが出来たとき、始めてその対応が可能となるのだと確信します。否定をしていたままでは誹謗・中傷が生まれるだけで何ら解決にはなりません。
始めて食する食べ物は、食べてみなければその味を知ることは出来ません。しかしその  
食材・調味料・料理方法の情報を入手できれば、推測は可能となるでしょう。これまでの先入観を捨て、企業経営者自らが、中国の空気を肌で感じ、情報の収集と分析を行って、自社の将来を見据えて決断することが重要です。

このレポートは私の事業経験の過程で実体験によって感じたものです。意見を異にする個所もあると思いますが、今後中国進出を検討される日本企業様の中国情報の一部として、ご参考にしていただければ幸いです。
2002年6月20日
上海平野磁気有限公司
董事長  平野 信幸

2−1.中国進出の課題
1)現地調査の重要性
中国に進出を検討する場合、最初に着手するのが現地調査です。
その現地調査を行う場合、現地の案内してくれる人材をどのように確保するかが、最初の難問となります。中国進出経験がある企業では、過去のルートを通じて人材の確保が出来ますが、始めて進出を検討する場合、この難問は企業の大小を問わず発生します。

この課題は中国進出に際して、重要な要素が含まれているのですが、「将来の事業経営を左右することにもなりかねないことである。」と認識している企業は極めて稀な状況と思われます。

特に日本の経営者は、人情的で信頼を尊び、最初に出会った人の情報・意見を重要視する傾向があり、このことが「日本企業の中国進出失敗事例の大きな要因の一つとなっている。」ことに気がついておりません。
 
最初に得られた情報は白紙の状態で入るため、その情報が先入観となり固定観念となって、その後に入手した「最初と違う情報は容易に受け入れられなくなる。」状況となります。特に中国では、正確な情報の入手が極めて困難であり、習慣・制度は各地方によって異なっているために、物の見方・解釈は個人的価値観の違いで大きな相違が生まれます。

また、中国では「自分と意を異にする情報に対しては徹底的に否定・排除する。」傾向が強いことを充分に認識しておかなければなりません。

このことは、「中国では面子を重んじる習慣が極めて強い。」ことに由来しているものと思われます。これは中国人に限らず、中国に精通した日本人にも言えることです。中国にいる日本人の習慣は無意識の内に、善し悪しは別にして中国の習慣に近くなっているからです。

中国進出における事業成功の鍵の一つが、最初に情報を入手したルートによると言っても、過言ではありません。

この情報分析を誤ることなく、自社の事情に応じた対応を行うには、「情報源を決して一つに頼らないこと」が最も重要となります。そして情報源(現地案内人・コンサルタント)の資質を出来る限り早く見抜くことが必要となります。

   
2)現地情報収集の留意事項
 
(1) 情報は複数から入手する。
(2) 結論を急がず、時間をかける。
(3) 異文化に対する偏見を持たない。
(4) 公的機関(日本・中国)のみに頼らない。
(5) 進出目的を明確にして、それに添った情報収集を行う
 
3)現地案内人・コンサルタントの評価・判断項目
 
最重要項目
(1) 結論を急がせる。
(2) 自分のコネを強調する。
(3) 知人・友人の採用を勧める。
(4) 自分以外の情報源と接触するのを嫌がる。
(5) 質問に明確な回答をせず、話題をそらす。

チェック項目
(1) 日本語でサポートできるスタッフが居ない。
(2) 活動拠点が明瞭でない。緊急連絡先が解らない。
(3) 行動予定が明確でない。予定をしばしば変更する。
(4) 費用の使途が明瞭でない。
(5) 契約内容が曖昧で、事前・事後報告が少ない。
(6) 自社の計画・希望を熱心に聞かず、話を進める。
(7) 自分の都合で日本と中国のルールを使い分ける。
(8) 相手によって対応の態度が変わる。
(9) 過去の顧客との関係が解らない。
(10) 日本語の出来ない友人・知人を紹介する。
(11) 事業に関係の無い人が食事に同席をする。
(12) 中国の文化・習慣に理解が無い。
(13) 中国・中国人に好意的ではない。
(14) 知らない、解らないとは言わない。
(15) 感情的になることがある。
   
4)判断・評価の方法
 
(1) 重点項目に懸念が1つある場合。
今後の注意が必要。
(2) 重点項目に懸念が2つある場合。
  今回限りの契約にすべし。
(3) 重点項目に懸念が3つ以上ある場合。
  本日限りをもって別れるべし。今後接触すべからず。
(4) チェック項目に3つ以上の懸念がある場合。
  今後の注意が必要。
(5) チェック項目に5つ以上の懸念がある場合。
  今回限りの契約にすべし。
(6) チェック項目に7つ以上の懸念がある場合
  本日限りをもって別れるべし。今後接触すべからず。

 

コンサルタントの経歴は、必ずしも「実務の事業経験者であることが条件」では無いでしょうが、日本企業の中国進出の失敗・成功事例を知り、自分自身の価値観で分析が出来ていて、「98年以降に中国に1年以上滞在した経験のある者」でなければ、中国の現状を理解しているとは言えないと思います。(駐在員経験者を別にすれば、事業の実務経験者で成功をしている人は多忙で、コンサルタントをする時間がない。)

私は、過去の中国進出における事業立ち上げの困難・失敗の殆どの原因は日本企業に問題があったと、感じております。その重要な要因のひとつが、情報収集に対する考え方です。一つの情報源のみを信頼して、正確な情報が入手出来ず、結論を急いで進出しては、事業立ち上げに苦労するのは必然であり、これは全て日本企業の問題であると感じます。

中国に進出する日本企業は、技術力も資金力もあり、明確な事業目的を持って、正確は情報収集を怠りなく実行出来れば、進出に際する最も大きな課題は解決され、「将来の展望は明るい。」と確信致します。

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