中国進出成功の条件  [2004.3.1]

中国レポート No.21 <中国進出成功の条>
件>

 わずか6ヶ月前の「SARS騒動が、何だったのか」と、疑いたくなるほど、最近の日本企業中国進出計画は活況を呈している。

T.中国経済の現状

 中国経済の伸びは凄まじく、貿易額は前年度比30%以上増加しており、1−10月期における相手国・地域別の貿易額は 日本がトップで、31.4%増の1,078億米ドルに達した。2位は米国で30.7%増の1,024億米ドルとこちらも1,000億米ドル を突破し、3位は欧州連合(EU)で42.3%増の997億米ドルとなり、伸びでは日米を上回っている。更に韓国、東南アジ ア諸国連合(ASEAN)との貿易も好調で、いずれも40%以上増加した。

外資企業の貿易額は約42%増の3,749億米ドルに達し、同期の貿易全体に占める比率は約55%で、輸出の多くが中国進出 を果たした外資企業である。輸出品目のうち電機・機械が42.1%増の1,784億米ドルとなり、輸出全体の51.2%を占めている。

国内需要においては、携帯電話の普及量は、2億6千万台(日本の約4倍)を突破し、自動車の生産台数は毎年100万台以 上の伸びがある。

このような現状から日本企業が、改めて中国進出を検討する(検討せざるを得ない)状況であることは疑問の余地はない。

しかしながら、過去十数年中国進出を果たした日系企業の中で、何%の企業が進出の目的を果たすことが出来たのであろうか?

一説には、毎月300社の企業が中国に進出し、その一方で200社以上が撤退をしていると聞く。

これほど大きなビジネスチャンスに恵まれながら、

『何故撤退の憂き目を見なければならなかったのか』、

『その主たる要因は何か』

U.成功の条件(失敗の要因)

上海の猛暑が過ぎた9月末以降、十社近くの中国進出を計画している企業との面談の機会を得た。その情報交換の中で、 「日本企業の中国進出の失敗要因」に気が付いた。

過去の「中国レポート・中国進出の課題」において、中国進出に際する留意点として、進出計画・情報収集・現地化・ 企業理念、等々多くのことを記述してきた。これらのことは、過去にも言われてきたことで特別に目新しい課題でな 無かったと思うが、最近の情報交換において、極めて重要で基本的な要因が存在していることが解った。

中国進出に際し、『A(エース)の投入』をしているか?

これまで(おそらくこれからも)多くの日系企業は、業界の動きや取引先の要請によって中国進出をしてきた。 これは対外要因に基いた受動的な決定であり、「止むを得ず」、あるいは「とりあえず」、又は「如何、仕方なく」 であったのではないだろうか。

「自らの価値観に基いて」、「自らの未来を切り開く」と言う、能動的中国進出では無かった為に、進出に際して 『A(エース)を投入しなかった。』、このことが中国進出失敗の大きな要因となっている。

過去に中国進出の経験の無い(ノウハウが無い)企業にとって、組織の大小・進出の形態・進出の目的等々の如何を問わず、 まず『社内のA(エース)を投入する。』これが中国進出の『絶対条件』であることを認識すべきである。

もし、エースの投入が出来ない状況である企業は、中国進出を計画するべきではない。

V.何故、エースでなければならないか。

自他共が認めるエースの投入は、内外に「不退転の決意を表明し」(ローカルに表明してはならないが・・・)、 日本からの「全面的バックアップ」が、保証される。(但し、エースの投入によって企業の存亡を賭けてはならない。)

現状の日本企業は、ややもすると定年退職前の人材やリストラ対象の人材を投入し、それでなくても決してエースと 呼べる人材ではない。これは前向きの「お前に任せた」ではなく、問題が生じてもバックアップをするどころか、 「何とかしろ!」で、「放り投げる」結果を生む。

習慣や制度の違う中国において、まして経験・ノウハウがない企業が、かのような人材で中国事業を成功させるなど、 決して出来るはずはない。中国を甘く見てはならないことを、充分に認識すべきである。 中国進出の成功は、A(エース)の投入で90%、K(キング)で60%、Q(クイーン)・J(ジャック)で30%、 それ以外では10%以下と心得なければならない。

『貴社は、成功率10%以下で中国進出を計画しますか?』

エースと投入せずに、安易な選択をして、中国進出を失敗した企業に、その要因として中国の習慣や制度を上げ、 「その責任を他に転嫁して非難する資格があるであろうか?」

中国進出企業にとって、エースの投入は究極の選択であろう。 そして、その選択こそが、『中国進出成功の条件』で、ある。

中国レポート No.25 <中国進出成功の条件U>

中国進出を成功させるには、進出目的を明確にすること。

U.中国進出の目的

  企業の中国進出の目的は、「事業利益を上げること」で、ある。

 目標とする事業利益の大きさは、投資規模や市場の大きさによって異なるとは思うが、「利益を出すこと」が、 中国に進出する企業の、共通した究極・不変の目的であろう。

 ところが、中国進出企業の実態は、「事業利益を上げる為の、手段であるべき中国進出」が、いつの間にか 「中国進出が第一の目的」となり、「利益の追求」は二の次に、又は忘れられてしまう。

 これは、企業の代表者や組織の体裁・面子が、進出計画の仮定において、その優先順位が上ってしまうからである。 これが、中国進出における「事業経営を困難にする」最も大きな要因となっている。これは、度々中国進出失敗の 要因にされる、「中国の習慣や制度の違い」とは、全く別次元のものである。

 中国事業失敗の主たる要因は、「事業経営者自身の意識の中にある」と、言える。  

V.中国進出の失敗要因

1)進出目的が明確でない。

 中国進出が事業利益をあげることとするならば、計画性を持って投資をし、計画と実態を常にチェックして、 修正を行うことが肝要である。

2)適材適所な人材でない。

 将来における中国事業の期待度によって、その期待に見合う人選をする必要がある。決して、リストラ対象者や 退職間近かな者を中国駐在員として派遣してはならない。 この人選は、中国進出をする経営者が犯している、最も大きな過ちである。

3)中国人を過度に信頼する。

 自社の中国人のスタッフや友人・知人を現地の責任者として選定する場合、過度に信頼をして全ての権限を委ね、 事業を失敗する事例も多い。

4)人材育成をしない。

 技術の流出を恐れるあまり、スタッフの育成に力をいれない。この場合、継続的に日本人駐在員の派遣が必要になり、 その費用が大きなコスト負担となる。

5)中国の市場を観ない。

 自社の技術に驕り、中国の市場に合わない製品を販売する。(押し付ける) 日本で受け入れられる機能・性能が中国では通用しない場合もあることに留意が必要である。

7.中国進出時における懸念事項

1)販売方法と回収問題

2)単独では経験・ノウハウがない。合弁では、相手先に不安がある。

3)中国を任せる、人材がいない。スタッフの確保と教育の問題

4)人材と技術の流出に不安。

5)駐在員費用とコストメリット。

6)協力工場とその技術レベル。中国国内部品の品質と安定供給

7)工場の選定・インフラの問題。

8)許認可・手続きの方法・法律の問題。コネがない。

9)法律・制度の変更について。

10)将来の人民元の切上げによるコストアップ。

12)進出の資金調達と投資の回収方法

13)反日感情

14)情報の信頼性(政府発表)

15)電力エネルギー問題

8.中国進出が有利な事業

1) 人件費のコストウエイトが高く、高度な設備・技術を必要としない事業

2) 現在、取引先及び製品の60%以上が中国向けの事業

3) 独自の技術・ノウハウがあり、類似品が脅威とならない事業

4) 現在、中国に競合がない事業

5) 中国の将来に大きなマーケットが生まれる可能性のある事業

6) コスト削減によって、日本の市場獲得が可能な事業

7) 投資の回収が5年以内に可能と見込まれる事業

8) 現地調達率が60%以上を実現できる事業

9.事業規模による中国進出形態

1)進出後、3年以内に駐在員・出張者の経費を除いて事業利益が1億円以上可能な場合

  独資による事業展開を計画する。駐在派遣は、事業利益5千万円で1名程度を目標とする。

2)駐在員・出張者の経費を除いて、事業利益が1億円以下と推測される場合。

  合弁事業により中国進出をする。常駐の駐在員は1名

3)事業利益5千万円以下の推測される場合

  合弁事業により中国進出。駐在員は派遣しない。

4)当面の事業利益は3千万円以下と思われる場合

  当面、委託生産により事業を行い、将来の中国進出の足がかりにする。

 中国進出の計画に際しては、事業の規模ではなく事業利益が可能な額によって、進出の形態・投資可能な金額を 検討すべきである。技術指導・移転には事業内容によって相違があり、充分な試算のもとに、少なくとも3年後には 事業黒字を達成して、その後「5年以内には投資を回収出来る見込みが立てられること」が肝要である。

(捨てる心算で来ると、それは現実となる。)

そして、事業推進に際しては、中国進出の目的と計画を充分に理解(計画を立案)し、それを実行できる人材を 現地責任者に任命することが、極めて重要な課題である。

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中国・上海から〜「中国進出レポート」


T.中国市場の拡大 
 「SARS騒動」が、短期間にほぼ終息したことによって、今回の混乱による経済的ダメージは小幅なものになると推測される。中国でもっとも影響を受けたのは、主にサービス産業であるが、この業界の規模は、中国全体の産業構造の中では多大な影響を及ぼす程大きくはない。  
 
 世界経済が低迷する中で、多少の鈍化はあっても、本年度の中国経済は5〜8%程度の成長を遂げるのは確実と推測される。(SARSが問題化する直前の1−3月四半期の経済成長は約10%)  
 
 中国経済成長の象徴的分野として挙げられる携帯電話市場は、昨年アメリカを抜いて世界一となった。端末の販売市場のみならず、昨年における生産台数は1.2億台で世界の約27%を占め、国内メーカーの市場専有率も40%に達していた。本年1−4月における販売台数は、約2700万台で、国産のシェアーは初めて過半数を超え、51.7%となった。  
 
 携帯電話だけではなく、エアコンや車などの現在の普及率から考えると、将来の潜在的市場は現在の数倍はあると思われる。そして、中国では最終市場と生産現場が直結しており、生産のための産業市場(設備投資市場)も拡大をし、この流れは今後も継続するであろう。

 

U.自由化の促進
 中国はWTO加盟以来、市場経済の秩序と投資環境は改善されようとしており、経済のグローバル化の流によって、世界資本の安定した受け皿にあるであろう。  
 
 今後、数年間における外資の受け入れは、7〜8%の伸びが見込まれ、2010年までの間における外資導入は60〜80兆円にも及ぶものと思われる。特に、今後のサービス・貿易分野の開放によって、この分野における投資は著しい成長を遂げるものと、考えられる。  
 

V.M&A(企業買収)
  市場経済の導入によって、経営環境が厳しい状況におかれている国営公司は数万社に及ぶと言われ、民間や海外からの資本の受け入れが自由化されると、企業買収の市場が拡大する。許認可の必要な事業では、新たな参入においてはまだまだ厳しい状況であり、それを持つ企業を買収することによって、即時に事業展開が可能となる。
 
1994年の民間資本による企業設立が許可されて以来、毎年20万社以上の企業が設立され、中国ではおよそ15人に一人は老板(ラオパン・社長)になるのを希望していると言われている。民間企業の中には、かつての国営企業や郷鎮企業から分離独立した企業も多く、これらの企業は過去の様々な資産の有効活用によって、設立後数年で売上規模が、数百〜数千万ドルに成長している企業も少なくない。
 
 元来、中国の人々は長期的展望を持つ習慣が薄く、また資本と能力のある一部の恵まれた人達は、次々と多角的経営を行って成功している。この成功は事業に対する「思い入れ」を気薄にし、ドライに経済的論理のみでM&Aに応じる傾向がある。
 
 国営企業の買収においては、現在はまだ法律整備が遅れているが、その企業改革・構造調整は急務であり、早い時期に整備されると思われる。しかしながら、法的問題より更に懸念されるのは、企業の資産を正当に評価し、仲介できる機構がないことであろう。企業買収に一般的売買を同じ感覚で条件提示をし、交渉(腹の探り合い)によって売買の成立を図ろうとしていたのでは、海外資本家の興味を削ぎ、信頼を損なうことにもなりかねない。
 
 M&A市場活性化には、「企業資産の正当な評価と仲介が可能な機構」の設立が必須となる。また、これもサービス産業の一つとして捕らえるならば、将来有望で魅力的な市場である。
 

W.コスト
   中国には、潜在的労働市場が3〜4億人あると言われており、労働力コストの安さの優位性は、今後も大きな変化はなく、労働集約型の産業の進出は今後も増加するのは疑問の余地はない。
 
 急速なインターネットの普及によって、サービス産業でさえも、市場との距離がなくなりつつあり、日本でのサービスを中国から行うことも可能になって来ている。第三次産業への外資導入が自由化される将来には、生活環境を整え日本の余剰労働力によって、中国から日本人によるサービスさえも、可能となるものと思われる。
 

X.企業の再編 
  外資の投資企業の制限が緩和され、中国国内で事業毎にプロジェクト投資を行い、独立経営をしてきた子会社の、統一的資産管理が可能となった。このことによって、多くの多国籍企業は、業務の再編が行われ、一元管理の下に敏速で効率的な投資と、新たな事業展開が容易になるであろう。
 
 資本の自由な移動は、事業の移動(既存事業の効率化)や人材の移動(人材登用の効率化)を促し、「市場の動向に即した効率的経営が可能となること」を、意味している。その結果、「持てる者は益々強く、持たざる者は市場からの退場を余儀なくされる状況が生まれる」ものと、思われる。
 
 「もたれ合いや、助け合いを容認しない」のが、これかの中国市場ではないだろうか。そこには、「強い者だけが、生き残る資格を有する」、市場経済の原理原則があり、「努力した者が報われる」 因果応報の摂理が存在している。
 

< 雑 感 > 
  2003年4月、世界を混乱に陥れたSARSに関して、現地上海から3回に亘り、中国の状況と中国進出の日系企業の対応について、「中国レポート」を出す事態となりました。
 
 この混乱の中で、「各企業(経営者)は何を観たのか、どのような行動を取るべきだったのか」、明らかになったと思われます。勿論、それらの行動が「全ての要因に対応出来る処方ではない」でしょうが、基本的な原則に大差はないと思われます。
 
   「SARS騒動」で最も被害を受けたのは、中国ではなく、日本の一般市民のような気がします。SARSは6月10日現在、ほぼ終息しておりますが、日本での後遺症は重く、この事態をどのように解決するのか、大変厳しい状況なようです。
 
 昨日(6月9日)、関西のある市で、「市民の安全確保を優先する」と、言う理由で、国際交流教育をテーマにした、「国際会議の中止を申し入れた」との、報道に接しました。これは、極めて自己中心的な発想であり、「市民の安全」と言う、大義名分の下に国際的な義務と責任を放棄した行動ではないでしょうか。
 
 ましてや、国際交流をテーマにしている会議をこのような理由で、「拒否することを発言する行為が、容認されている事態」は、許されるべきものではありません。このような差別的・排他的情勢を生んだ元凶は、悪戯に危機を煽ったマスコミとその対応を誤った政府、そして目先の情報に右往左往した、経済界にあったと思われます。
 
 その一番の犠牲者は、一般市民であり、今後も発生する感染症に対して、どのような対応をすべきか、その療法は極めて困難になるのではないかと、懸念されます。
 
 「他人への思いやり」を、美徳としてきた日本の文化を早く取り戻して欲しいと、願うばかりです。


 2003年6月10日  

 

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T.人民元切り上げ 
 これまでの「中国レポート」や、多くのセミナー・著作で指摘されている、合弁事業・売り掛け回収・投資回収・技術流出等々の問題とは別の視点で、今回は、昨今の情勢等から懸念される、「今後の中国進出における、五つの課題」を拾ってみた。  
 
  昨年より、「デフレ輸出の元凶と言われている」中国人民元の切り上げが、SARSの沈静化で再び問題提起されている。中国政府は、自国の通貨である人民元の安定のために、「管理フロート制」によって、為替を政府のコントロール下においており、そのレートはほぼ米ドルとリンクされた状態にある。  
 
 昨今、このレートが低すぎるとの批判が出されているが、政府は現状の維持を表明している。アメリカは自国産業の競争力維持や、貿易赤字対策のために、ドル安を容認している。これは、アメリカの圧倒的な優位の立場(国際基軸通貨としてのドルと経済力)を利用して、自国の通貨をコントロールしているのと同じであり、中国が同じ手法を取っているとしても、その政策を非難する対象には出来ないであろう。  
 
  日本の競争力がないと判断するならば、政府が率先して円安政策を行うべきであり(為替管理制度の導入)、それが出来ないことで他国にその対応を押し付けるのは、自己責任の回避に他ならない。(アメリカの提唱する様々な自由化は、アメリカの利益の為にすぎず、他国には世界標準を押し付けながら、自国では、ポンド・ガロン・インチ・ヤードを使用するなど、その政策は極めて如何わしい。)  
 
 日本の歴史を振り返れば、360円/ドルの固定相場から、アメリカの圧力によって自由相場にしたことで、日本円は30%以上高騰し、今や嘗ての1/3になっている。90年代初頭の行き過ぎた円高(79円)によって、日本は投資・債権大国となったが、製造業の競争力が落ち、現在の長い景気低迷の引き金となった。  
 
 自由経済を選択した中国政府は、その日本の過去に学んでいるであろうと、思われる。しかしながら、明らかに中国の競争力は、他のアジア諸国に比べて勝っており、人民元の切り上げは避けられない問題であることは間違いない。それが、いつ、どの程度になるかは予測不可能であるが、これから中国進出を検討する企業にとっては極めて重要な要因であり、その時を想定して進出を判断しなければならない。  
 
 人民元の切り上げは、「中国での製造、海外販売」を主目的としている企業にとっては、競争力の低下に繋がる。一方、中国市場を視野に置いた企業にとっては、輸入部品や駐在員のコストが相対的に安くなることであり、円換算の利益及び投資資産の価値が上がるメリットが生まれることにもなる。  
 
 

U.人材
  中国ではおよそ15人に一人は老板(ラオパン・社長)になるのを希望していると言われている。これは進出企業が最も必要とする、優秀な管理職のスタッフが少ないことを意味する。管理職が不足すると、日本からの駐在員に負担が大きくなり、増員しなければ安定した生産が困難となる。駐在員の増加は、大きなコストアップに繋がり、コスト削減を目的とした中国進出は、意味を持たなくなる。  
 
 これからの中国進出においては、ローカルスタッフの育成が大きな課題である。そのためには従来のような、生産に関わる専門家の駐在員だけではなく、中国の事情に精通し、社員教育に才のある人材を派遣しなければならない。  
 
 優秀な管理者を外に求めるのではなく、自社内において継続的に育成していかなければならない。優秀な人材ほど独立心が強く、育成が終わった時には社外に出ることも充分に考慮しなければならないからである。  
 
 管理者の育成と、その能力に見合う処遇を行い、出来る限り現地化を推進しなければ、中国進出における、明るい展望は期待できなであろう。また、従来の3〜5年の定期異動のような駐在員の派遣システムも再考されなければならない。人材の育成には経験と時間、そしてスタッフからの信頼が重要であり、長期的視野に立った制度でなければ、効果を上げるのは困難である。  
 

V.情報(エネルギー)
  最近の上海発展は凄まじく、エネルギー対策が経済の伸びに追いつかない状況になっている。今年の夏は昨年と比較して、9%以上の電力需要の伸びが予測されており、大口の電力需要先への協力要請と、地域外からの電力購入によって、で大きな混乱は回避できるようである。しかし、この問題は次年度以降も継続的に発生する可能性がある。
 
 華東地区においては、海外からの投資が活発で、大型の工業区開発計画もあり、現状のような経済成長が継続すると、本年から始まる三峡ダムでの発電でも供給不足になることは避けられないであろう。三峡ダム発電による受給可能な電力は、上海地域においては現在のピーク時における総電力使用量の約4%程度である。これからの中国進出においては進出予定地区のエネルギー問題を充分に検討しておかなければならない。
 
 電力エネルギーが、生産に重大な支障をきたす事業においては自家発電等の設備も必要となる。エネルギー政策は極めて大きな課題であり、開発区の一責任者が保証できる問題ではないことに留意する必要がある。これらの情報収集は極めて重要であり、今後、中国進出する企業には、事業の規模に応じた、電力の供給制限等も懸念される。
 
<参考> 上海地区における本年の、ピーク電力負荷予測は約1360万Kw、三峡ダム発電は本年8月約200万KW(上海地区へは約25%が供給される予定)、将来における最大発電能力は約1500万Kw(ピーク発電能力、年間平均は約1000万Kw、これは日本の原子力発電で約10基分に相当)
 

W.経済政策 
  SARS騒動によって、本年5月から施行される予定であった、CCC規定(強制製品認証制度、「中国レポートNo.6」)は実質的に順延されたが、日本からの中国輸出、進出企業の設備導入には様々な影響が考えられる。
 
 SARSの発生によって、海外からの行動が制限される状況が発生した。今後、中国進出企業の設備導入においては、益々、現地調達が促進されであろう。中国の大きな市場に依存している企業にとっては、自社の都合に関わらず、「中国進出か中国市場からの撤退か」の選択を迫られる事態になると思われる。
 
 一昨年には、省外(上海市外)からの人口流入を防止する措置として、特殊な技能を有する者、学卒者以外の居住権取得が制限されており、又本年からは、失業率対策として定年退職者の雇用制限も行われている。
 
 中国では、政策の施行は厳格に行われ、これらの情報収集は極め重要となる。政策の確実な実行を行うために、違法者に対して「内部告発制度」が奨励されており、(内部告発は国民の義務であり、正義である)、安易に法律を掻い潜る手法を取るべきではない。中国での事業は、「正道を歩む心がけ」が、必須である。
 
 

X.企業理念 
  今回の「SARS騒動」は、日本企業にとっても中国にとっても、「立ち止まって考える」絶好の機会を与えてくれた。この数年、加熱気味の中国情報によって、逆らうことが困難な流れの中では、「冷静な状況判断が出来なかった」と、思われる。
 
 特にこのような状況では、中国進出の目的が曖昧になり、「企業の理念・経営者の志が、置き去られた」観がある。
 
 中国に進出すると言うことは、中国社会の一員として活動することであり、その活動の規範は「企業の経営理念であり、経営者の志に基いたもの」で、なければならない。この規範の喪失が、「中国における事業失敗の大きな要因であったのではないか」と、思われる。
 
 中国進出における事業展開において、多くの諸問題は「企業理念」の確立によって明らかになり、その対応も明確となる。理念の曖昧さが、諸問題に対処出来ず「混乱と撤退」と一因になっているのではないだろうか。「SARS騒動」によって得たこの機会に、改めて「事業の原理原則に立ち返り」、そして、「そのことに言及する必要がある」で、あろう。
 
 


< 雑 感 > 
  これまでの「中国レポート」の中で、日本企業の「中国進出の課題」として、一貫して提案してきた、「中国進出目的の明確化、情報収集の重要性、異文化に対する理解、権限委譲と現地化、そして独資進出への疑問」が、「SARS騒動」によって、図らずも立証される結果となってしまいました。
 
 チャイナワーク社のご好意により初めさせて頂いた「中国レポート」が、今回の騒動を契機として、中国進出を改めて思い直し、また進出後の事業推進に役立てていただければ、大いに意義のあったことだと、思っております。
 
私ごとですが、6月19日より、日本に戻る機会がありました。現在、日本と中国において事業をされている多くの皆様と電子メールで情報交換をさせていただいており、日本に帰国した際に、下記のメールをお送りしました。
 
<メール内容>
昨日、SARS騒動以来始めて日本に帰国しました。
定員400名弱の飛行機に40名足らずの乗客でした。
過去50回以上、上海ー成田の便を利用しましたがこんな経験は初めてです。
日中の到着にも関わらず、成田空港はまるで深夜の最終便のように、
閑散としておりました。
訳もなく、対象もなく、何故か怒りが、込み上げました。
「今、日本は病んでいます。」

2〜3Kgの、ダイエットのつもりが、拒食症に陥り、
10数Kgの体重の激減で、体力を無くしているようです。
しかも、そのことに気が付いていないような・・・・(茹で蛙状況です)
この後遺症は、相当永くなりそうです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 このメールに対する返信で、日本の方からの多くは、拒食症が「私自身のこと」と、誤解をまねき、 (その方々には、不適切な表現で、ご心配お掛けしました。この場を借りてお詫び申し上げます。)
中国に居られる方々からの殆どは、「同感です。」とのメールを頂きました。
まさに、日本においては、「日本の現状が見えていない」と、改めて感じました。


 2003年7月10日

 

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